本能寺の変には 多くの謎があると言われている
そのひとつは 信長の遺骸が見つかっていないこと
また 光秀の謀反の理由も諸説あり
明智光秀の後ろに黒幕がいたという説もある
1582
ソロ曲のタイトルから
信長が 最期の舞を舞う姿が浮かんでいたのだけれど
この曲を実際に聴いたときから
信長の後ろで舞うひとりの女性の影が浮かんで消えない
本能寺の変の謎
今ある諸説から思いっきり離れた視点から創作してみたくなったの
歴史上の根拠は一切考慮してなくて
単なる作り話です(笑)
<わたしだけを 摑まえていて>
燃える桜 1582 ・・・ 本能寺の変 異説私は 信長様の御正室濃姫様にお仕えしていたものでございます
本能寺の変は
明智光秀様の謀反という世間一般のお話になっていますが
本当は 悲しくも哀れな物語があったこと
私の冥土への旅立ちの前に
どなたかにお話してみたくなったのでございます
老婆の徒然の長話
お耳に留めてくださるお時間があれば
どうぞ お立ち寄り下さい
ときは 1582年 冬
「誰かあるか 怪しげな人影が 屋敷内にあるのは何ゆえか」
お供のものの声高い叫びに
殿の部屋の前の庭を見ると
古い桜の木の下に 青白い顔をした小さな娘がおりました
ただひとりそこに落ち着いて座っている様子は
ここにいるのは当然のことですとでもいうかのように
あたりの景色と溶け合って
何の違和感もないのが不思議でございました
「こやつは 敵の間者に違いない
切って捨ててくれるわ」
信長さまつきの小姓が切りかかろうとしました
堅く守られた護衛の中を潜り抜けて
どのように屋敷に入ることができたのか
まことに不思議でございます
娘は高貴な身分の方が着るような着物を身につけており
その静かなたたずまいから
大切にかしずかれて育てられたに違いない様子が見てとれるのでした
そして 小姓が切りかかるも
顔色ひとつ変えず 静かにそこに座っているのでした
騒ぎを聞きつけたお館さまが
「そのままにせよ。」
とおっしゃって その娘に話かけられたのでございます
しかし その娘は一言も話さず ただ座っているだけでございました
「そうか・・・」
殿は一目で何かを悟られて 皆に向かってこうおっしゃったのでした
「この者に部屋を与え 今日からわしの世話をさせる」
その日から 娘は「桜」と呼ばれました
桜の木の下にいたからということで
殿がお名前を下さったとのことでした
桜の仕事は ただ殿と庭を眺めるだけ
桜は 口がきけないのでした
殿は 桜を相手に
ひとりお話をされました
他の者をすべてお人払いされたので
殿がどのようなことをお話されていたのか
誰も知るものはありませんでしたが
毎日のように 桜のお部屋へお通いになる 殿の姿がありました
桜は 殿にとって 誰にも話せないことを話せる
数少ない心許せる存在だったのかもしれません
ときには お濃の方とご一緒のときもあり
まるで 娘のように思っておられたのでしょうか
桜が初めて屋敷に来たとき座っていた桜の木を
ただ二人で眺めていらっしゃるだけのときもあったようです
いつしか お屋敷では
彼女のことを「桜姫」と呼ぶようになっていました
1月の桜の枝の蕾は固くて まだまだ春は遠いのでした
2月 3月と蕾は少しずつ膨らんでいき
それにつれて 堅かった桜姫の表情も
明るく華やかになっていったのでした
4月が来て 桜の花が満開になると桜姫の姿は
花びらが開くように 美しくあでやかに変わっていったのです
ある夜のことでした
「なんと見事な桜じゃ
わしは 桜は儚いからこそ 美しいと思う
潔く散るこの姿 見習いたいものぞ」
満開の桜の下で ご満悦でささを飲まれる殿の隣で
桜姫は さらさらと涙を流したとのことでした
「桜よ 何ゆえ 涙を流すのじゃ
美しい花の下では 微笑が似合うのじゃ」
それでも 桜姫は涙を止めることができなかったそうです
桜の花びらが 散り始めると
桜姫は 伏せることが多くなり
桜色だった頬は みるみる白くなり
起き上がることができなくなっていったのです
庭の桜は 散ってしまい 葉ばかりになってしまいました
しかし 一輪の桜が残っている一枝があったのです
その姿は
この世に未練を残し 去ることができない
魂の化身のようでもありました
桜姫は起き上がることもなく
見舞いに訪れる殿の顔をただ見つめながら
ただ一筋の涙を流すのでした
そんな桜姫を屋敷に残し
信長さまは 本能寺へ向かわれました
一輪残った桜は
もう力尽きて 桜の花びらとも見えなくなってもなお
最期の力を振り絞ってしがみついているようでしたが
風に揺れ 今にも飛んでいきそうでした
1982年 6月2日
忘れることができない
あの恐ろしいできごとが 起こったのです
なぜ そんなことになったのか
私には わかりません
昨日まで信長さまに忠義を誓っておられた光秀さまが
あんなことを
わたくしたちには 信じることができませんでした
殿は 最後まで闘われました
けれども 最期はご自分の手で・・・
そのとき
小姓に放たたせた炎に包まれながら
舞を舞われる信長さまの周りに
炎と混じりながら どこからか桜の花びらが舞い込んで来たのです
6月の桜 ありえない景色だけれど
しかし 炎が大きくなるにつれ 桜の花ふぶきも激しくなり
殿の身体を包み込みように舞うのでした
そのとき ひとりの女の姿が見えたのです
女は 殿の姿とひとつに重なるように舞い続けました
殿にまとわりつくように 絡め取るかのように
舞い続けるのでした
それは なんと あの桜姫の姿だったのです
そのとき 今までけっして聞いたことのなかった
姫の声が聞こえてきたのです
「 ごめんなさい
こうするしかなかったの
あなたを愛してしまったの
あなたに見つめられるだけで
支配されてしまったの
指先まで
私は どこ
なぜここにいるの
そんなことさえ どうでもよくなる
あなたと契るなんてそんなことは望んでいなかった
あなたの隣にいるだけでいいの
それだけで 癒された
今まで ひとりで生きてきた孤独を
癒してくれたのはあなた
ただ そばにいたいの
永遠の見果てぬ世界へ 今
あなたを連れていく
あなたの血に染まって
真っ赤に咲くの
あなたと一緒に
私は燃え上がる
1秒ごとに 色を変えて
その目
誰よりも近くで 誰よりも長く
ただ わたしだけを見ていて
そのクチビル
私のためだけに語って
わたしだけのあなたでいてほしい
どうかどうか わたくしを
その手で 摑んでいて
愛で」
殿の身体から流れる血で 桜の花びらは赤く染まるのでした
殿を包む炎で 花びらは燃えるように さらに赤く色づくのでした
今まで見た桜姫とは 別人のように頬は燃え
儚いけれど 妖しく 艶やかで
炎に負けないほどの 熱さを感じるのでした
「そうか お前だったのか」
そうつぶやかれた殿の顔は静かに微笑まれたようでした
そして 目を静かに閉じられ
そのまま炎と桜に包まれて逝かれたのでした
私はそこで意識が途絶え
気付いたときには 床についていたのでした
濃姫さまにお使えしていた私でしたのに
姫をお助けすることも 死の旅のお供をすることもできず
ふがいないわが身を嘆きながら
恥ずかしくも 今日まで生き長らえてきたのでございます
その後 本能寺では
いくら探しても 殿の亡骸は見つからなかったということです
殿が亡くなられたそのころ お屋敷で桜姫もなくなったそうです
一枝にだけ残っていた一輪の桜も 散っていたということです
光秀さまは あるときより
原因不明の耳鳴りにおそわれることが多くなり
そのころより信長さまの寵愛に疑いを持たれたのでは
そんなことが囁かれました
光秀さまのお召し物に
桜の花がついていることが多かったのはなぜなのか
御付きの者が 不審に思っていたという話も聞きました
桜姫は 桜の精だったのだ
光秀さまを導いた黒幕は桜姫だったのだなどという噂が
ひそかに流れたのでございます
信長さまに魅せられた桜の精が
女の姿となって現れたのではないかなど
愚かしい作り話だとお思いでしょう
私も 炎に包まれた桜姫の姿が まことであったのかどうか
今となっては 心もとないのでございます
お屋敷の桜は
あの年より一度も花をつけなかったとのことでございます
< 完 >
夜桜を見たあの日から 夜桜のイメージが頭から離れなくなって
作ってしまった作り話です(笑)
ソロ曲の歌詞もしっかり聞き取れずに
イメージだけで書いているので
外れたところがあっても どうか大目に見てくださいね
また 別のお話として
信長の小姓だった美少年の森蘭丸のイメージも浮かぶのですが
これは また いつかの機会にでも・・・

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